セルゲイ・ハリトーノフvs ジミー・アンブリッツ
この試合、ハリトーノフの相手はもともとモーだったらしいんだけど、モーが負傷欠場したために、急遽、ジミー・アンブリッツに決まった、らしい。
このジミー・アンブリッツってのが、筋肉モリモリ。
よく、ボクシングやキックボクシングで「胸に筋肉をつけすぎると、ストレート系のパンチが出なくなる」っていうけど、まさにソレだった。
ジミー・アンブリッツのパンチは常に腕が曲がっていて、フック系のパンチしか出せない。いや、あれはフックですらないと言ったほうがいいのかもしれん。
とにかく、まともなパンチが出せないのだ。
試合自体は、ハリトーノフがスタンドでパンチを浴びせて、余裕勝ちだった。
ところで、昔、佐山聡が「総合でもっとも有効なパンチはロシアンフックだ」と主張していたことがあった。
総合ではたえず相手がタックルに来ることを想定しなきゃいけない。そうすると、ボクシングやキックボクシングのような腰が入ったパンチ(もちろんキックも)出せない。腰をひねると、それだけ体のバランスが悪くなり、タックルで倒されやすくなるから。
そうすると、相手に向かって体をひねらず、腕だけを振り回すような形で出すロシアンフックがもっとも有効なパンチということになる。佐山の論理はこのようなもの。
ヴァンダレイ・シウバなどのシュートボクセ勢、また、数年にわたってずっと総合格闘技の選手で最強であるヒョードルもフック系のパンチを多用してる。
今日の試合だと、アリスターなんかも、手が非常に長く、ストレート向きだと思われるにもかかわらず、フック系のパンチばかり撃っている。
だが一方、ストレート系のパンチを使う選手もいる。
ノゲイラなんかはボクシングを習っていただけあって、ストレート系のパンチを使ってた。
今日の試合に出てた選手だと、ミルコ、秋山なんかがそう。
佐山の話を読んだときは、なるほど、そういうもんかといたく感心したわけだが、これだけストレート系のパンチを使う選手が増え、また、活躍できているのを見ると、さて、これはどれだけ妥当なもんかと疑問に思わないでもない。
特にミルコだが、彼はストレート系のパンチを使うだけでなく、キックまで使っている。そして、実績を残した(もっともUFCではノゲイラ、シウバとは対照的に無残な結果に終わったが)。
言うまでもなく、ストレートよりも、キックのほうが体のバランスを崩すわけで、佐山の説からすれば、キックは使ってはいけないはずだ。
特にミルコは純粋に打撃出身の選手なので、それがあてはまる。
もっとも、これはちゃんと理由がある。
現在の総合格闘技のルールに膠着ブレイクが取り入れられたからだ。
寝技で動きがないとき(膠着してると思われたとき)などに、スタンドから試合を再開するが、昔はそんなのはなかった。ただ、ガードポジションからコツコツパンチをわき腹に入れているだけであっても、ずっと、そのままだった。
初期のプライドなんかでは試合中に「つまんねーぞー」と野次がとんでいたくらい。
佐山がロシアンフック最適説を唱えたときは、たしか、膠着ブレイクが取り入れられていたような記憶があるが、なにせ、歴史が浅いので、そこらへんの見通しはあいまいだったのかもしれない。
今の総合格闘技が膠着ブレイクを取り入れてなかったとしたら、打撃系の選手がこれだけ活躍することもなかっただろう。
膠着ブレイクの導入というのは、総合格闘技における最大のパラダイムシフトだった、と私は思っている。
ただ、そういうルール面での意味合いはさておいて、ストレート系のパンチが総合格闘技で有効なのかどうかってのは、正直なところいまいちわからないんである。
二回目のミルコ対シウバ戦では、ミルコのストレートが面白いように決まり、その蓄積もあってか、シウバはミルコのハイキックでKOされてしまったんだけど、この試合なんかを見ると、ストレートはやっぱり有効なんじゃないかっていう気もしちゃうわけだし。当たり前のことだけど、ストレートのほうがリーチが長い。
まあ、最初の試合では引き分けではあったけど、明らかにシウバが押してたけど。
さて、みんな大嫌いの秋山さんだが、途中から試合を見た。もうグラウンドに入ってた。
秋山は柔道出身らしく、押さえ込みには強いが、極めには弱いという印象を持ってたんだけど、まあ、そのとおりの展開だった。
ただ、完璧な選手ではないとはいっても、秋山が強いのは事実。
特に打撃のセンスはすばらしいとしか言いようがない。癖の無いパンチ(ストレート)撃つし、あて感もいい。
正直なところ、いちばんヒョードルと闘ってほしい選手だ。体重が違うのは百も承知だが、それでも闘ってほしい。
だって、ボコられるところを見たいんだもん。