
北斗の拳というマンガのなかで、敵キャラであるラオウの肉体はかなりデカく描かれている。
主人公のケンシロウと並ぶと、中学生と大人くらいの体格差がある(ひょっとしたら、もっとかも)。
これが兄弟にはとても見えないというか、そもそも人種自体が違うように見えるというか、もっといえば、動物の種類からして異なっているようにさえ見えるというか。
ラオウはデカい。
すごくデカい。
北斗の拳に限らず、敵キャラの体を大きく描くというのは、かなりありふれた現象である。
たとえば、あしたのジョー。
もともと原作者の梶原一騎は、力石をジョーの終生のライバルとして考えていた。
ところが、漫画家のちばてつやは、力石が単なる雑魚キャラなんだと思っていて、初登場シーンで、力石の体を大きく描いてしまった。
どう見ても、力石の体格はジョーよりも一回りほどデカイ。
つまり、ボクシングで言えば、二、三階級上の体である。
なので、力石をジョーと戦わせるために、あの過酷な減量のシーンが挟まれた。
という、有名なエピソードがあるけれども、漫画家っていうのは、やっぱり敵キャラの体をデカく描きたいもんなんだと思う。
何故っていえば話は簡単で、「そのほうが強く見えるから」。
そして、敵キャラが強そうに見えたほうが、話が面白いから。
人々がバトル漫画に求めるのは「逆転」の物語だ。
最初から、メチャ強い主人公が危なげなく、敵を倒していく。
こんな話が面白いわけがない。
ヒョードルみたいなのが主人公で、当然のように勝ち進んでいく話なんて詰まらない。
(ヒョードルはたしかリングスで一回、判定負けしただけ。それもバッティングによる出血が原因という不慮の事故)
それよりも、一見弱そうに見えたり、もしくは落ちこぼれだったりする主人公が、努力と根性で強くなっていく物語のほうが、ずっと面白い。
そのほうが共感できる。
興奮できる。
燃えられる。
だから、漫画家は敵キャラの体を大きく描きたがるのだと思う。
敵キャラを大きく、そして主人公の体を小さく描くことによって、視覚的に強弱関係をアピールしているわけだ。
「この敵キャラは強いですよ」ってことを絵で示そうとしている。
そして、同時に「主人公は不利な状況に置かれてますよ」ということも示している。
と、こうして考えてみたときに気になる漫画が一つある。
ドラゴンボールである。

(以下からドラゴンボールの話になるのですが、あいにく手元にドラゴンボールの単行本が全部揃っているわけではないので、ほとんど、私の記憶を頼りに書いてます。だから、記憶違いもあるかもしれませんが、そこらへんは容赦してください)
ドラゴンボールの前半部分では、敵キャラの体は主人公の孫悟空よりもデカい。
ヤムチャ、桃白白(タオパイパイ)、天津飯。
彼らの肉体は悟空よりも大きく描かれている。
もっとも、これは、敵キャラの体がデカいというよりは、この時点では悟空が子供だったために、相対的に敵キャラのほうが体がデカかった、という感じである。
悟空が成長して、大人の体で描かれるようになったのって、たしかピッコロと二度目に戦うとき、だったと思う。
あのマジュニアとの戦いのとき。
ここらへんは記憶が曖昧なんだけど、この時点でも悟空の体はピッコロよりも、多少小さかったように思う。
ピッコロ編までは、こういう、悟空(小)<敵キャラ(大)という不等号が基本的になりたっている。
北斗の拳でラオウの体が大きく描かれるのとまったく同じ原理なわけである。
もっとも、ドラゴンボールの場合は敵キャラが大きいというより、悟空が小さいわけだけど。
ところが、悟空が大人の体になってしまったピッコロ編以降はこの不等号が逆転してしまう。
ピッコロの次の敵キャラは、ベジータであるが、ベジータの体は悟空よりも小さい。
これは悟空が成長したので、悟空との比較で相対的にベジータの体が小さいというだけでなく、ベジータは他のピッコロ、天津飯とかと比べても明らかにチビである。
敵キャラといっても、脇役的存在のラディッツは悟空と同体格だし、ナッパは悟空よりも一回り体がデカかったりするが、肝心のボスキャラのベジータはチビ。
この時点で、
悟空(大)>敵キャラ(小)
という不等号に変わっているわけであるが、ベジータが他のキャラと比較してもチビであることを考えると、この不等号は、もっと、
悟空(大)>>>>敵キャラ(小)
みたいに、ベジータの小ささを強調しているようにも感じる。
この不等号は、次のフリーザ編でもまったく同じで、部下の脇役にデカいキャラはいるけど、肝心のフリーザはチビ。
魔人ブウはチビではないけど、悟空よりは少し背が低い。
そして、そんな身長がどうこうよりも「デブ」である。
見た目はぜんぜん強そうじゃない。
ところで、皆さんはこいつのことを覚えているだろうか。

私はこのセルのことをまったく忘れていた。
フリーザ編のあとに、レッドリボン軍と戦う、ということは覚えていたんだけど、このレッドリボン軍のボスキャラがどうしても思いだせなかった。
いやー、クリリンの嫁とかは、ちゃんと覚えてたんだけどなー。
なかなか、このセルが出てこなかった。
ベジータ以降の、ボスキャラのなかで、このセルだけが「見た目が強そう」なキャラ。
たしか、このセルは体も悟空より一回りほど大きかったはずだし、見た目もなんか強そうである。
とにかく、このセルを除けば、ベジータ以降のボスキャラはすべて「見た目が弱そう」なキャラということになる。
ベジータ(チビ)
フリーザ(チビ)
魔人ブウ(デブ)
こんなふうに。
悟空の体が大きくなってから以降、ボスキャラの見た目が弱そうになっている。
「一見、弱そうだけど、実はすんごく強い」というふうに、見た目と実力のギャップを出すことによって、インパクトを出す方向にキャラ造形が変わっているのは明らかなように感じる。
悟空の体が大きくなったんなら、敵キャラはもっと大きくすればいいんじゃないか、という考え方も当然ありえた。
たとえば、フリーザ編のあとに、フリーザの父というのが出てくるが、こいつなんかは見た目が強そうだ。
体が尋常じゃなくデカいし。

しかし、ご存知のとおり、こいつは登場したと思った瞬間に、トランクスに殺されている。
こういうキャラ造形が、意図的にやったものか、無意識的にやったものかはわからないけれども、とりあえず、読者にインパクトを与えたのは確かじゃないだろうか。
ベジータもフリーザも印象に残ってるし。
それに比べると、通常のキャラ造形の発想でつくられた、セルはどうも陰が薄いような気がする。
まあ、これはただ単に私が忘れてただけかもしれないけども。
ただ、試しに知人にドラゴンボールのボスキャラの名前をあげてもらったら、
「ベジータ、フリーザ、、、、、、、魔人ブウ?」
って答えてたので、セルを忘れてたのは私だけではないらしい。
ただ、こうしたキャラ造形はドラゴンボールに一つの欠点を与えたような気がしないでもない。
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いや、スーパーマンと比べられても…と思ったけど、そういやドラゴンボールでもしまいにはみんな普通に空飛んでましたね。亀仙人が結構最初の方でかめはめ波で月を一撃で吹っ飛ばしてましたけど、最後にはみんな成長しすぎて、強さでいえば亀仙人がドラクエのスライム並の雑魚キャラになっちゃってて、強さのインフレ化の頂点を極めたような作品でしたし。
最後のほうでは、雑魚キャラじゃなければ、地球の一つくらい余裕で壊せる、くらいまで強さのインフレ化が進んだわけだけど、やっぱ、このインフレ化は異常。
バトル漫画においては、
強敵を倒す→その強敵よりももっと強い強敵が現れる→もっと強い強敵を倒すと、もっともっと強い強敵が現れる
というふうに、強さのインフレ化というのは避けられないものではあるけれども、それでも、他のバトル漫画と比較してもドラゴンボールのインフレ化は群を抜いている。
いくら強いといっても、ケンシロウが地球を壊せるだろうか?
ナルトの螺旋丸は地球を壊せるだろうか?
ルフィは地球を壊せるほど強いだろうか?
ドラゴンボールで、この強さのインフレ化が加速したのは、ベジータ編以降のように思う。
たしかに、最初のほうで、亀仙人が月をかめはめ波でぶっとばすシーンがあるけれども、これはドラゴンボールのなかでは「無かったこと」にされてる感がある。
ピッコロ編までは、
「動きが速過ぎて、体が分身して見える」
とかの、ある程度常識の範囲に収まる程度の強さだった。
(あくまでバトル漫画での常識だけど)
それがベジータ編以降、「地球をぶっこわせる」くらいまで強さがインフレーションしてしまうのは、やっぱ、これはボスキャラの「見た目が弱そう」であることと無縁ではないんじゃないだろうか。
見た目で「こいつは強そう」と読者に思わせることができないため、別の方法で強さをアピールせざるを得ない(地球を壊せるとか)という事情があったんじゃないか、と思ったりする。
そういえば、ナルトもまた、孫悟空と同じで体が成長しているけれども、ナルトはまだ敵キャラと比べると小さいような感じがする。
イタチとかよりも小さいし。
私はここで予言しておく。
ナルトの体がこれからさらに成長して、体の小さい敵キャラが出てくるようになったとしたら、ナルトの螺旋丸は地球を壊せるようになるだろう、と。
*どうでもいいことなんだけど、螺旋丸って必殺技としてはショボくないですか?
螺旋丸を飛ばせたりするわけでもないし。
相手に直接触れなきゃ意味ないんだから、あんなの簡単にかわせそうなもんだ。
まあ、そのうち飛ばせるようになっちゃったりするんだろうけど、螺旋丸。
しかし、飛ばせるようになった螺旋丸はかめはめ波と同じような気がする。
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韓国実写版ドラゴンボール
韓国実写版北斗の拳