[対戦者] Air 対 私(西園寺)
[試合形式] アニメ「Air」を見て、私が泣いてしまった場合、Airの勝ち。
私が泣かなかった場合、私の勝ちとする。
[判定基準] 実際に涙が流れなければ、「泣いた」と判定しない。「感動した」「じーんときた」程度の感情の揺れでは、「泣いた」とはみなされない。
[試合時間] 12話分の視聴時間とする。
[反則] 感情を無理に押さえつける、意図的に感情をあらぬ方向にそらせる、等の行為はこれを反則とする。
たとえば、感動しそうな場面に差し掛かったとき、
「草薙素子@うさ耳メイドバージョン」
「草薙素子、SOS団に入部希望」等の無意味なギャグを頭に思い描き、これをもって自然な感情を阻害することを禁ずる。
これらの反則行為が発覚した場合、一年間のアニメ視聴禁止処分に加え、一ヶ月間の「Air」Tシャツの強制着用を課す。

さて、唐突にも程があるって感じですが、上記の内容どおり、今回は、
Air(製作 京都アニメーション) 対 私(無職同然)
の異種格闘技戦です。
そもそも異種格闘技戦のルールとして、もっとも多くの人たちを納得させるものとして始まったはずの総合格闘技が、いまや「総合ルールに最適化された格闘家」たちによる戦いへと進化した現在、異種格闘技戦なんてのは「かみあわない戦い」としてしか認識されていません。
だけど、やっぱ昔の異種格闘技戦ってワクワクしたもんだよなあ。
血沸き、肉踊る興奮っての?
「一体、どの格闘技が最強なんだ!?」っていう素朴にして好奇心かきたてられる疑問。
試合が始まるまでのワクワク感だけは、今の総合格闘技よりもはるかに上だった。
もっとも、試合が始まると、案の定すんごく詰まらなかったりするんですが。
そんな異種格闘技戦の昭和臭あふれるドキドキ感を現代によみがえらせてしまおうという素晴らしいこの企画。
なんてったって、「アニメ」と「人間」を戦わせてしまおうというんですから、発想の規模がデカい。
梶原一騎でも新間寿でも、こんな無謀な企画は考えつかなったに相違ない。
まあ、あえて比肩することができるものを探し出してみれば、
「ウィリー・ウイリアムス(極真空手) 対 熊」
くらいのもんでしょうか。
しかし、この突飛な企画とて、「人間対猛獣」という古代ローマの昔から延々と続けられてきた、人間の一般的な想像の範疇に収まってしまう企画。
それに比べてみれば、私の考え出した「アニメ対人間」という企画の斬新さには遠く及ばない。
そもそも戦う必然性が毛ほどもないところに、むりやり戦いを持ち込む、このシュールレアリズム的発想。
我ながら自分の頭の良さにほれぼれする。
さて皆さんも、「いったいどっちが勝つんだ?」と期待に胸をドキドキさせて心臓発作起こしかけている頃合いだとは思いますが、ここで残念なお知らせです。
この勝負、おそらく私の圧勝で終わると思います。
つまり、Airを見て私が泣くなんてことはありえないでしょう。
というのも、この前、Kanonっていうアニメを見たんですが、ぜんぜん感動しなかった。
詳細はこちら。
http://animemangarobox.seesaa.net/article/36055035.htmlKanonとAirって、
Key原作のギャルゲー
放映したのがBS-i
製作が京都アニメーション
監督が石原立也
と、ほとんど同じ背景を持ったアニメなのです。
はっきり言ってKanonは楽勝だった。
なにしろ、美坂栞という難病の少女の話で腹を抱えて爆笑してた私です。
まあ、沢渡真琴のエピソードと、最終回あたりはちょっと胸にこみ上げるものがあったものの、涙を流すなんてところまでは全然いかない。
Kanonに圧勝してしまった私が、ほぼ同じ条件のAirに負けるなんてことが考えられるでしょうか?
ははは。ありえない。
たとえて言うならば、ヒョードル(私)と、初期UFCで片手だけボクシンググローブつけて出てきたボクサー(Air)が戦うようなもの。
こんなの試合の前から勝負はついていると言っても過言ではない。
Airファンの皆さんには大変申し訳ないのだけれども、スーパードライな感性を持った私がAirで泣くなんてことはありえませんから。
と、試合前から興を削ぐようなことを言ってしまったんだけれども、とうとう試合開始。
[前半戦]
国崎住人(ゆきと)という青年が、ふらりと海沿いの田舎町にやってくる。
神尾観鈴という女の子と知り合い、彼女の家に居候することに。
最初は、春子(観鈴の母)に反対されていたが、なんやかんやで住み着くことに。
で、この町で幾人かの女の子と出会い、それぞれのエピソードが語られるという形でストーリーが進む。
最初の数話を見た感じでは、どうやら、AirもKanonと同じく、「ちょっとファンタジー風味の感動話」の様子。
この辺りは、こちらの予想通りの試合展開。
なにしろKanonを前もって見ている、という経験値はでかい。
なんとはなしに、このストーリーのあらましが前もって予測できる。
ストーリーが予測できる、ということは試合が進むにつれ、私の最大の武器になるであろう。
というのも、昔、ホーストがボブ・サップと二度目の試合をやったときがあった。
この試合、結局、ホーストはサップに負けてしまうのだけれど、試合中、ホーストのたった一発のボディブローを喰らって、サップがダウンしてしまう、ということがあった。
私は、これが見ていて不思議でならなかった。
それ以前に、ボディにダメージを受けていないのに、なぜたった一発のボディブローが効いてしまうのか?
後日、格闘技雑誌を読んで、その疑問が氷解した。
これを言ったのが、竹原だか大橋だか、誰だったのかは忘れてしまったんだけれど、とにかくボクシングの元世界チャンプが語るところによると、
「あのボディブローは『見えなかった』から効いた」
というのである。
つまり、ホーストのボディブローを、もしサップが見えていれば、その衝撃を予測して、腹筋を引き締めるなりして、予防動作がとれる。
パンチが見えていれば、そのようにしてダメージを軽減できる。
ところが、サップはボディブローが見えていなかったから、その予防動作がとれず、不意打ちのような形でダメージを喰らい、ダウンしてしまった。
この法則は、今回の試合でも有効であろう。
私が、もしAirのストーリーをあらかじめ予測できれば、そのダメージ(感動)を軽減することができる。
人間というものは、予想通りのストーリーが眼前で繰り広げられたところで、そうそう感動できるものではない。
まあ、中には、前もって「泣く」つもりで、そうした映画を見にいく変態的な人もいるにはいるが、幸いなことに私はそうした変態ではないので、そのへん安心である。
うむうむ、これは思っていた以上に楽勝かもしれない。
やっぱAirごときで私を倒せるはずもなかろう。
すちゃっと勝っちゃおうかなー、すちゃっと。
ただし、ここでちょっと予測しきれなかったことが一つ。
このアニメのヒロインは、
神尾観鈴
霧島佳乃
遠野美凪
と3人いるのであるが、そのうち霧島佳乃、遠野美凪のエピソードが早々に(確か五話くらいで)終わってしまったのである。
このアニメ全12話だから、3人で四等分して、4話ずつくらいで回していくのだろうと思っていたのだが、二人の分は案外とあっさりしていた。
これが予測とは少しばかり違っていた。
まあ、そうたいした誤差ではないので焦ることもないのだが。
しかし、二人のエピソードが既に終わってしまったということは、残りのストーリーは神尾観鈴で占められるということ。
このアニメのメインヒロインは観鈴。
つまり私の敵は、今ここではっきり「神尾観鈴」にしぼられたわけである。
霧島佳乃、遠野美凪の二人のエピソードでは、涙が出てこなかった、というか、胸に込み上げてくるものすらほとんどなかった。
神尾観鈴に感情移入さえしなければ、私の勝ちは揺るぎないものとなるだろう。
果たして、私は神尾観鈴に感情移入できるのであろうか。
ところが、ここでまたAirファンの皆さんに残念なお知らせです。
別に神尾観鈴に限ったことではなく、このアニメ全般に言えることなんだけど、キャラデザインが妙にロリっぽい。

特にこの観鈴はときどき「がお」なんて言ったりして、子供っぽい。
こんなことを書くと、ちょっと羨望と嫉妬のまなざしで見られるかもしれんのだけど、私にはロリ属性があまりないんだな、これが。
たとえば、
「高町なのは、小学3年生」
と
「淫らな人妻、32歳」
が並んでいたら、迷わず、「淫らな人妻、32歳」を取る。
そこに寸毫の迷いもない。
今まで、アニメを見ていてロリキャラに萌えられたのは、
唯一、フルメタル・パニックのテッサだけ。
ま、私はこういうタイプの人間なんで、
そうそう神尾観鈴に萌えることもなさそうな予感がする。
もちろん、それはこれからのストーリー展開にも拠るのだけれど。
萌えさえしなければ、感動することもないだろうし、この点でもまた、試合展開は私に有利な方向で進んでいると言ってよい。
[中盤戦]
で、神尾観鈴を中心に話は進んでいくのであるが、彼女はどうも精神を病んでいるらしい。
高校生にも関わらず、「がお」を語尾につけるという、その言動だけでも、精神に異常をきたしているのは明らかなのであるが、
「空にもう一人の自分がいるような気がする」などと妄言を吐いたり、
誰かと仲良くなりかけると、泣き出してしまう、といった異常行動が目立つ。
ここらへん、あくまで少しだけ、あくまで少しだけではあるけれども、同情を禁じえない。
しかし、精神を病んでいる女の子がメインヒロインなのか。
ヒロインが精神病というと、私なんかは「ノルウェイの森」くらいしか頭に浮かんでこないんだけれども、このアニメもその手の話なんであろうか?
と観鈴とこの後のストーリー展開に対して、シンパシーと疑念を抱いていたのだが、ここで驚くべきことが起こる。
なんと、物語がいきなり平安(らしき時代)へとタイムスリップ。
おりょ?!
あまりに急激なストーリー展開に、頭がついていかない。
なんだ、これは?!
いったい、どうなっている。
私は動揺を隠せない。
ちょっとしたパニック状態。
しかし、落ち着け。
これはあれだ。
観鈴の数々の異常行動がどこから来ているかという、謎解きの部分のはず。
このアニメはちょっとしたファンタジー風味で出来ているから、この平安時代の話と、現代の話がどこかで繋がっている、っていうオチだろう。
そう考えれば、この程度の話の逸脱はなにも心配することじゃない。
結局のところ、私の読みは当たっていた。
ここの平安時代の話部分でのヒロインは観鈴と関係があるらしい。
らしい、ってのは随分と適当な言葉使いではあるが、この部分は具体的に示されるわけではないので、「なんとなく、こういうことなんだろうなー」という程度しかわからないのである。
もっとも、主人公の国崎住人が何者であるかは、ここで分かったんだけど。
と、なんやかんやで平安時代部分は終了。
うーん、中盤にきての、このストーリー展開の急変には焦らされた。
まあ、もちろん、ここでも涙は流してはいないんだけれど、自分の予想と大幅にずれてストーリーが進むとさすがに精神に動揺をきたす。
正直なところ、この中盤戦は、「Air」に押されていた。
だが、まだまだ大丈夫。
私はいまだに観鈴に萌えてはいないし、涙がでる予兆もない。
気を引き締めて、終盤戦にのぞみたい。
[終盤戦]
観鈴がなぜ「変」なのか、ということは、おぼろげながら分かった。
そして、その理由によって、観鈴は病んでいく。
徐々に歩けなくなっていくし、徐々に記憶を失くしていく。
そういうことらしい。
あー、これはアレか。
アレですね、アレ。
いきなり平安時代にタイムスリップしたり、「空を飛ぶ少女」というイメージに惑わされていたりしたけれども、結局のところ、このストーリーって、「難病もの」なのだ。
基本的に、病気によって死んでいく少女、という要素が骨格であって、そこにもろもろのファンタジー的なイメージを絡めているだけ。
そうと分かれば、そんなに臆するほどのこともない。
たぶん、このアニメの最後は、主人公の国崎住人の腕に抱かれて死んでいく観鈴、といったシーンで、視聴者の涙を誘おうという算段なのであろう。
なはは。
私は極めて頭がいいから、こういうことにまで気が回るのであるけれども、ちょっと頭の出来がよろしくない大衆の皆さんなどは、こういう製作者の意図にまんまと乗せられて涙を流してしまったりするのであろう。
哀れ。
まあ、その点、私はこのアニメの結末を予想しきってしまったから、その心配もない。
中盤戦では、少し焦らされたが、こうと決まれば、あとは安心して試合にあたるだけ。
楽勝ムードかな。こりゃ。
などと、余裕ぶっこいていたのであるが、ここでまた予想外の展開。
なんと主人公の国崎住人が消えてしまったのである。
いや、正確に言うと、消えてはいないのだけれども、まあ、消えてしまったのと同じ。
これ以降、ストーリーに絡んでこない。
うげげ!?
なんだこの展開?
まさか、ギャルゲー原作の萌えアニメで、主人公の男が消えるだなんて思いもよらなかった。
だって、そうでしょ?
ギャルゲーと言ったら、どういうわけか主人公の男がもてまくり、複数の女を攻略できる、という類のゲーム。
まったく違う性格の女の子だというのに、みんな、なぜか主人公を好きになってくれる、というゲーム。
「お兄ちゃん」とか呼んでくる女がいるから、妹だと思ってたら、後に血が繋がっていないということが判明して、妹とまでエッチしちゃえる素晴らしいゲーム。
言ってしまえば、ギャルゲーにおける男主人公っていうのは、
複数の女の中心に位置する太陽なわけ。
その太陽が消えちゃってどうすんだよ、これ?
???????????????????????????
無数の?が頭の中を駆け巡る。
やばい。
さすがにこれはやばい。
死んでいく(消えていく)観鈴と、その喪失を嘆き悲しむ国崎住人、というラストシーンを思い描いていた私は、自分の予想が完全に外れてしまった。
なにしろ、後に残されるはずの国崎住人が、観鈴の前に消失してしまったのであるから。
動揺しまくって、煙草の吸い口のほうに火を点けてうっかり有毒ガスをあびてしまったりしている私ではあるが、ここはそれでも建て直しを図らなければならない。
つまり、このストーリーがどっちに転ぶのかを予想しなければならない。
それが、今の私のやらなければならないこと。
住人が消えたあと、ストーリーは観鈴と春子の人間関係を描写していく。
細かいことは省くけれども、春子は観鈴の実の母親ではない。
実の親は別にいるのだけれど、複雑な家庭の事情によって、観鈴は春子に預けられている。
春子は思うところあって、観鈴に素直な感情を表わすことができないし、
観鈴も観鈴で、春子に甘えることができない。
こうした感情の機微、すれ違いを丹念に描いていく。
ふむふむ、なるほどね。
要するに、これは家族愛をテーマにしているわけだ。
今まで、いびつな家族だった、観鈴と春子が心を通わせあっていく過程を、
観鈴の死を絡ませながら、感動的に描こうとする腹積もりであるか。
おっと、おあつらえむきに、観鈴の実の父親という人物が登場してきたよ。
なはは。
笑止。
恋愛ものだと思ってたら、いきなり家族ものに変わってしまったので、
ちょっと焦りはしたが、そうとわかれば、怖くはない。
今は最終回の一話前であるが、実の父親が観鈴を返せと言ってきた。
それを拒否する春子であるが、今までの感情のすれ違いから、
観鈴との繋がりを信じきることができない。
結局、観鈴を実の父親に渡すことに。
舞台は夕日に染まった浜辺。
眠っている観鈴を抱いて、遠くへ去っていく父親。
あー、このあとは、アレが来るんだな。
眠りから覚めた観鈴が、ばたばた暴れて、
春子のところに泣きながら駆け寄ってくるっていうシーンだろう。
おっと、やっぱり予想どおりの展開。
どうせ、そんなことだろうと思ったよ。
それで、遠くのほうから、
「ママーっ」って叫んだり、ね。
あはは。
予想どおり、予想どおり。
こんなお約束で、私が泣くはずが、・・・・
泣くはずが・・・・・・
泣いていた。
気づくと泣いていた。
両の眼から、とめどなく溢れる熱い涙。涙。涙。
よかった。
本当によかった、と心の底から思う。
もうすぐ消えてしまう観鈴だが、その前に二人の心が通じ合って、本当によかった。
今まですれ違っていた母娘の感情が通じ合った瞬間。
ダメだ。
これは耐えられぇ。
感動で涙がとまらない。
あまりにも泣けたので、画面がぐしゃぐしゃに歪んで視認できなかった。
このようにして、私はAirに敗北した。
しかし、後悔の念はそこにはない。
いい勝負だった、と心の底からそう思う。
それから、私が敗北したのは最終回の一話前だったので、蛇足ながら、
最終回のことにも触れておきたい。
まあ、当然、最終回がどうなるか、なんてのは予想がつく。
観鈴の運命がどうなるのか、ってことも、また。
予想がつきさえすれば、感動なんてしないだろうと思っていた私だが甘かった。

これ、クライマックスシーンでの春子なのであるが、
この画像だけ見ると、あまりにも涙の量がすさまじく、
なんか眼球が溶けてゲル状になって零れ落ちているようにも見える。
常の私であれば、爆笑しているところなんであるが、そんな無体なことはできなかった。
というのも、私もまた、眼球がゲル状になるくらい号泣してたからである。
挿入歌の「青空」とかいう曲が流れているころには、眼球ゲル状態。
いや、もうギブ、ギブ。
これ以上泣いちゃったら、もう干からびちゃうから。
[試合結果] Airの一本勝ち。
[敗戦者インタビュー]
(インタビューブースに現れた西園寺のまぶたは赤く腫れ上がっていた)
(試合の感想は)思ってたよりAirは強かったよ。今回は負けちゃったけど、今度の試合に期待してほしい。
(Airの感想は)まあ、国崎住人が消えてしまったのが、オレの誤算だったね。あの展開がなければ、勝てたかもしれない。
(ファンに向けて一言)日本のファンは世界一さ。オレはそう思ってる。今回の結果は残念なものだったけど、また応援してほしい。